「なぜ紫色は高貴の色?」

royal purple「先生、ご無沙汰~。わあ、暑い、暑い!」

今月某日、汗を拭き拭き「きらら館」に飛び込んで来たE子さん。開口一番、いつもの様に立て板に水の独演会?が始まりました。

E子さん「この前、お邪魔した時、2番目の息子が結婚したいと連れて来た彼女との相性を鑑て貰って、先生から『◎』のお墨付きを貰ったんだけど、5月頃に一緒に来た母が、何だか気に入らないらしいのよ。母はきらら先生の大ファンだから(笑)私に内緒で、きっと近いうちに『きらら館』に来ると思うの。その時はその時で鑑定よろしくね」

さらに延々、あれやこれやの四方山話で30分。――これが彼女のいつものパターンです。

E子さん、こう書くと、如何にもエネルギー溢れ過ぎる?“熟女”のように思われるかもしれませんが、実は某美術大学で教鞭を執る「色彩学」の専門家。彼女のユニークかつ絶妙の“色彩講義”は、学生たちにも大人気の秀逸なもの。――この日の「きらら館」では、「虹」の話から「紫色」についての“講義”になりました。もちろん生徒は私です!?

きらら「洋の東西を問わず『紫色』は、太古の昔から高貴の色とされていますが…」

E子さん「紫色は『帝王紫』と呼ばれているんだけど、別名『貝紫』とも言われるように、地中海で採れる特別な貝からしか抽出されないということで希少価値が生まれ、それが貴族専用の色として世界中に広まったという説が有力ね。歴史的には、3600年以上も前のフェニキア国で貝紫が使われていたという文献が残っているし、それがエジプト、ギリシャ、ペルシャ、ローマ、そしてシルクロード経由で日本に伝えられたわけね。現在、正倉院で所蔵している貝紫で染めた織物は1000年を経た今も、昔のままの鮮やかな色彩を保っているので有名よ」

きらら「貝紫?――初めて耳にしました。てっきり草木や花で染めるものと思っていました」

E子さん「もちろん草木でも染まるけど、帝王紫には絶対に染まらない。不思議よね」

きらら「どんな貝なの?」

E子さん「私も外国の図鑑でしか見たことないけど、アクキ貝科の貝よ。この貝は牡蠣や貽貝が主食にしているんだけど、その時に紫色の毒液を吹きかけて相手の蓋を開かせるのよ」

きらら「その毒液が染料?」

E子さん「そう。でも、1グラムの染料を採るのに2000個近い貝が必要なんだから大変よ。貴族専用となるのも無理はないわね」

きらら「その貝紫って、現在は化学染料で染められるんでしょ?」

E子さん「それがダメなの。“幻の紫”と呼ばれる所以よ」

きらら「ヘ~ッ!」

E子さん「それに、この毒液は染料と使用する以外に、頭痛に効く成分が含まれていて、一種の“クスリ”でもあるわけ」

きらら「ふ~ん!」

E子さん「だから、よく時代劇なんかで病気のお殿様が頭に巻いている“病い鉢巻”は、紫色でしょ」

E子さんの“色彩講義”の前では、私の口から出るのは、いつも「は~!」「ヒェ~!」「ふ~ん!」「ヘ~ッ!」「ホ~ッ!」ばかり。――普段とは真逆の立場の楽しい1時間でした。

きらら(7/22)