「占い師の本懐」
初夏と思いきや晩春に逆戻り。
穏やかならざる世情を反映してか不順な天候の毎日。
マメな着替えを励行してください。
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雨の中、ホントに久しぶりにHさんがご来館。
年齢を感じさせない、いつもの笑顔です。
「すっかりご無沙汰してしまいました」
Hさんは中部地方某県で有名な老舗旅館の3代目の女将さん。
先代からのお付き合いです。
「コロナ、コロナで大変な時期にわざわざお越しいただきありがとうございます」
まず、自慢の紅茶をお出しします。
「一時は、もうダメかと思うほどお客さまが減ったんだけど、おかげさまで今はほぼ元通りに回復。板前さんはじめ、ひとりの退職者も出すことなく頑張っています」
「大変じゃないのかしらと、案じていたのですが、ひと安心しました」
「『得意淡然、失意泰然』――今回の騒動で先代が残した“家訓の意味”を改めて実感させられました」
「その言葉は、先代がお見えになった時に、我々の商売は『日頃のおもてなしの心がけが一番だ』という言葉とともに、よくおっしゃっていましたよ」
「『調子のいい時に有頂天になるな、悪い時に落ち込むな』という当たり前の言葉なんですが、今回ばかりは痛感しました」
「日頃のおもてなしの賜物だと思いますが、わたしもちゃっかり“拝借”、『きらら館』開館以来の、いわば“館訓”にさせてもらっています(笑)」
「それでね、先生。今回のピンチの際、息子が以前から裏山でひとりでやっていたシイタケ栽培を少しでもタシになればと思い、『F農園』として、本格的に売り出したところ好評で、今ではちょっとした特産品になり、東京の幾つかの料亭からも引き合いがあったので上京してきたのです」
「息子さんには一度だけお会いしたことがありますが、確かにそんなことを言ったような気がします。でも、シイタケが救世主以上の商品になったとは、うれしく思います」
「今日、お邪魔したのは、その御礼のためと、来月に生まれる2番目の孫の命名のためです」
「命名はお引き受けしましたが、御礼って?」
「息子が言うには、まだ学生の頃、先代に連れられてお邪魔した時に、きららさんから『あなたは<ひらめきの人>だから、これと思ったことをコツコツ続ければ、必ず花が咲きますよ』と言われたことを思い出し、思い切ってシイタケ栽培を始めたそうなんですよ。――息子からもきらら先生には、よろしく御礼を言って欲しいと言われて参りました」
「コロナ禍で大変な折り、わざわざのご来館、恐縮です。ありがとうございました。息子さんにも、上京した時には、顔を見せてくれるようにお伝えください」
これぞ「占い師の本懐」です。