『好きこそものの上手なれ』
ここ数日はポカポカ陽気。
春の訪れが例年より少し早いような気がします。
「先生、受かったよ」
「おかげさまで第一志望に合格できました」
「無事に桜が咲きました」
3月になると「きらら館」で鑑定させて戴いたご本人、お母様、そしてお爺様、お婆様たちから嬉しい知らせが届きます。
K君とは、3年前の1月某日、これ以上の暗い顔はないと言ってもいいほどの暗い顔でお見えになったのが初対面です。
東急百貨店の書店から帰る時にエレベーターからビルの壁面の『きらら館』の看板を見たとかで、占いは初めてだけど、「モノは試し」と足を運んでくれたとの由。
いかにも育ちがよさそうなお坊ちゃんです。
「どうしたの、そんなに暗い顔をして?せっかくのイケメンが台無しよ」
「はあ。どの大学を受けていいか分からなくて?」
「若いんだから、もっと背筋をビシッと伸ばして…」
K君のあまりの元気の無さに、ついつい”保護者口調”になってしまいます。
「珈琲、飲みます?」
「はい。ありがとうございます。頂きます」
珈琲を飲んで少し落ち着いたようです。
「大学の入学試験って私立だったらもうすぐでしょう。受験する大学が分からないって、どういうことなの?」
「僕は農学部に行って植物の研究をしたいのに、父は大反対で、医学部に行け、行けって認めてくれないんです」
「お父様はお医者様?」
「はい。代々が医者の家系で、祖父も、ふたりの兄も医者です」
「無理もない話だけど、それでもあなたは農学部に行きたいと…」
「はい」
「じゃあ、鑑定してみるわね」
「よろしくお願いします」
「優しい性格ね、K君は。――植物の研究者はピッタリよ」
「本当ですか!ヤッター」
「気休めじゃなくて、お医者さんは手先があんまり器用じゃないし、正直なところ向いてないわね。――それ以前にK君は、今まで『僕はこういう理由で農学部に行きたいんだ』って、ご両親に自分の考えを訴えたことがあるの?」
「ありません。中学も高校も両親が勧めた学校に進みました」
「18歳といえば、もう自分の人生は自分で決める年。占いの結果がどうのこうのじゃなくて、『好きこそものの上手なれ』。自分が本当にやりたいことをやるために上級学校に進むべきじゃないかな。何度でも『心底から農学部に進みたいんだ!』って両親を説得してみるべきよ。きっと分かってくれると思うから…」
「はい。何だか説得できそうな気がしてきました。今晩早速、父に話してみます」
「あなたの人生が懸かっているのだから、真剣に話すのよ。頑張って!」
「はい、頑張ります。農学部受験を許してくれるまで頑張ります」
念願の”赤門大学”に合格、今や3年生になったK君。
今年の年賀状には「毎日、充実した学生生活を送っています」とありました。