「別れは必然、相手を恨むこと勿れ」
秋は束の間。
すっかり初冬です。
風邪を引かないよう気をつけてください。
「寒~い」
そろそろ終業にしようかな?と帰り仕度をしている時にEさんが飛び込んで来ました。
Eさん「急にきらら先生の顔が見たくなったので来ちゃいました」
Eさんは、グラビアなどで活躍中の人気ファッションモデルです。
きらら「どうしたの、そんな薄着で?」
Eさん「近くのスタジオで雑誌の撮影があったので、着替えもしないでそのままお邪魔しました」
きらら「寒いでしょ。珈琲がいい? それとも紅茶?」
Eさん「オフコース、珈琲で~す。きらら先生の淹れてくれる珈琲は美味しいんだもん」
モデルですから美人なのは当然ですが、彼女の最大のチャームポイントは、まるで天使のような屈託のない笑顔です。
ひと息ついたEさん、急に悲しそうな顔つきになって話し始めました。
Eさん「実は…付き合ってた彼から『別に付き合っていた彼女が妊娠したから、別れて欲しい』って言われて…」
きらら「彼って、この前、お見えになった時に鑑定した2歳年上の彼?」
Eさん「そうです。きらら先生には、『あなたとの相性は最凶だし、めぐり合った時期も最悪。彼は重症の“浮気病患者”だし、恋は一時的。付き合えば付き合うほど傷は深くなるばかり。――『善は急げ、別れも急げ』――早く別れる方がお互いのためです』って言われていたのに、わたしって天の邪鬼だから、それを無視して…(涙)」
涙ぐんだEさんの話はなおも続きます。
Eさん「あの時、きらら先生は『わたしは、どんな形の恋愛にも頭から否定するようなアドバイスはしません。でも、彼にだけは、例外的にきっぱりとレッドカードを出します』と仰ってくれました。それなのにわたしったら…(涙)」
もう、涙は真っ黒、つけ睫毛も落ちそうです。
泣きじゃくるEさんに何と声をかけたらいいのか、さすがのわたしも当惑。泣きやむのを待つしかありません。
きらら「珈琲のお変わり、どうかしら?」
Eさん「お、お願いします」
きらら「これはとびきり美味しい珈琲よ。大きな不幸の一歩手前から引き返してきた“お祝い”に最高の珈琲豆で入れたのよ」
Eさん「頂きます。――美味しい!」
ようやくEさんの顔に笑顔が戻って来ました。
Eさん「わたしがバカだったんですね(苦笑)」
きらら「人生、何事も経験なんだから、そんなに自分を卑下しちゃ、せっかくの経験が無駄になっちゃうわよ。『災い転じて 福と為す』――今回の経験を糧にして、明日に向かって一歩を踏み出すことこそが大切よ」
Eさん「彼に振られて良かったのかしら?」
きらら「そうよ。良縁もあれば悪縁もあり。今回の別れは必然。むしろ彼の方から悪縁を切ってくれたのだから、逆説的な言い方だけど、感謝しなければいけないかも…(笑)」
Eさん「今は、まだ感謝なんて出来ませんが…」
きらら「Eさんは聡明だから、時間が経てば、きっとそう思えるようになると思うわ」
Eさん「そうかなあ?」
きらら「『別れは必然。相手を恨むこと勿れ』――どんなに腹を立てても、彼のことをウジウジと恨んじゃ駄目よ。人を恨んでいると、自分の心までマイナス方向に行っちゃうから…。心の中に恨みを沈殿させたままでランウェイを歩いたら、せっかくの素敵なお洋服も喜ばないと思うけどなあ(笑)」
Eさん「お洋服の気持ちにまで気を配るなんて、きらら先生って優しいんですね(笑)」
きらら「とにかく、明日からはいつもの溌剌としたEさんに戻ってください」
Eさん「いや、今日から、たった今から、さっきまでのわたしを捨てて、颯爽と一歩を踏み出すことにします(笑)」
きらら「来年は、今年以上にいいお仕事が入ってくるはず。ボヤボヤしてちゃ、せっかくの幸運を逃がしてしまうわよ」
Eさん「頑張りま~す。いつか、わたしの出るファッションショーを是非、観に来てくださいね」
きらら(11/1)