『“その日”までの宿題』
晩秋。
小旅行よし、美術館めぐりよし、読書よし。
残り少ない「秋」を満喫してください。
思わず天に向かって背伸びしたくなるような快晴の日。
午後一番のお客様は背広にネクタイ姿の若い男性です。
「どうぞ、お座りください」
見るからに落ち込んだ表情です。
「昨晩、予約したAです。よろしくお願いします」
どことなく信州訛り?
「生まれは長野県?」
「そうですけど…。僕の顔を見ただけで分かるんですか?」
「わたしも信州だからよwww」
少しばかり緊張感が緩みました。
“長野県人会”の誼で、いつもの珈琲にお客様に頂いたカステラをプラスします。
「あっ、このカステラ、僕大好きなんです」
ゆっくりと味わうように食べています。
「ごちそうさま。おいしかったです。占いに来て珈琲にカステラまで…」
「カステラは好きなの?」
「先月まで付き合っていた彼女と自由が丘のお店で何度も食べたので、つい思い出して…」
また深刻な顔に戻りました。
どうやら相談事はその「彼女とのこと」のようです。
「1年近く付き合っていた彼女と別れたのですが、今も忘れられなくて…。僕は僕なりに真剣にお付き合いしたつもりなんですが、突然、連絡がつかなくなって…。スマホも番号が変わってしまったし、マンションも引っ越していました」
ふたりの生年月日をお伺いして鑑定開始。
わたしの手許を彼は食い入るように見つめています。
「彼女とお付き合いを始めたのは去年の8月ごろでしょ」
「は、はい。でも、どうして…」
彼の言葉を遮って続けます。
「別れて正解ですよ」
「エッ!」
「まず、ふたりとも<最悪の時期>に出会っているわね。遅かれ早かれ別れるふたりなのに、1年も続いたこと自体、不思議だわね」
「どういう意味ですか?」
「何となく人恋しいふたりが、何となく魅かれ合って、お互いに燃えるものがないのに取り敢えずお付き合いしていた。――厳しい言い方をすれば“恋愛ゴッコ”をしていた1年だったんじゃないかしら」
「確かに僕自身、結婚したいと思ったことはないし、彼女もそんな素振りは見せなかったですね」
「彼女も真面目だから、あなたを傷つけたくなくて黙って連絡を絶ったと思います」
何か心当たりがあるようです。
「別れる少し前に、つまらないことで大喧嘩。言い合いになったのですが…」
「お互いに今まで我慢していたことが積もり積もって爆発したのね」
「彼女のことは諦めたほうがいいですか?」
「いい思い出として残すためにも、その方があなたらしくていいわよ」
「……」
「そんな深刻な顔をしなくても鑑定では、来年の今頃、あなたにピッタリの女性が現れると出ています」
「ホ、ホントですか!」
「無理に作った縁は壊れるけど、自然な流れでできた縁は長続きします。ガツガツしないで“その時期”を待っていれば、結婚したいと心の底から思う女性に出会いますよ」
さっきまで難しい顔をしていたA君の顔が少し緩みました。
「でも、いくら大きな『恋愛★』が巡ってくると言っても、それまではしっかりと内面を磨かなくちゃね。それがあなたの“宿題”よ」
「宿題ですか?」
「あなたは優しいけど、少しわがままだからねwww。ひとりっ子でしょ、あなたは」
「そうですけど…。そ、そんなことも分かるんですか、占いって、。凄いなあ」
「そんなことより宿題をキチンとやること。いいわねwww」
「はい。分かりました。今日は美味しい珈琲も戴いたし、“長野県人会”に感謝ですwww。“運命の人”に出会ったら、またお邪魔しま~す」