「3歳までは肌を離さず、6歳までは手を離さず…」
某月某日。入口のあたりで赤ちゃんの泣き声がしました。
きらら「あら?」
見ると、赤ちゃんを抱っこした若い女性が困ったような顔をして立っていました。
きらら「どうしたの?」
Yさん「お騒がせしてすみません。おむつが濡れたのか、急に愚図り始めて…。どこかでおむつを替えようと場所を探していたのですが、どこも見つからなくて、ここまで上がってきてしまいました。そこの踊り場を借りていいでしょうか?」
きらら「はいはい。そんな所じゃなくて、お部屋で替えたら…。さあさ、入って…」
Yさん「でも、お仕事中でご迷惑では?」
きらら「困った時はお互い様。遠慮しないで…」
赤ちゃんの名前はAクンは、生後4ヶ月の男の子。おむつを替えてもらってスッキリしたのか、次のリクエストはおっぱいのようです。
きらら「お腹が空いているようだから、おっぱいもあげたら」
Yさん「エッ、いいですか? 何から何まですみません」
おむつも替えてもらったし、お腹も一杯になったAクンは頗るご満悦の体です。
きらら「今は核家族になって、昔みたいにあれこれ教えてくれるお婆ちゃんやお爺ちゃんも少ないし、東京での子育ては大変ね」
Yさん「子育てがこんなに大変なものだったとは(笑)。今はまだ産後休暇なので育児に専念できるのですが、夫の帰りは遅いし、私ひとりでテンテコ舞いの毎日です」
きらら「『親はなくても子は育つ』って言うけど、それは昔の話。時代が複雑になればなるほど親の存在が大切なような気がするわ」
Yさん「私の育て方がこの子の人生を左右すると思うと、その責任の重さに、時々怖くなることがあります」
きらら「でも、それは母親になったら誰しもが思うことよ。あまり神経質になっちゃ駄目だし、だからと言って放りっぱなしでもいけないし…」
Yさん「初対面なのにこんなに親切にしてもらって、厚かましいお願いですが、人生の先輩として『これだけは!』っていうアドバイスがあったら是非、教えてください」
きらら「アドバイスできるほど立派な子育てをして来なかった(笑)私が口にするのもおこがましいけど、私が初めて母親になった時に故郷の母から贈られた言葉だけど、『3歳までは(子どもと)肌を離さず、6歳までは(子どもの)手を離さず、その後は心を離さず』ということを心掛けたつもりよ。あくまで『つもり』だけど…(笑)」
Yさん「何となくですが、なるほどと思える言葉ですね」
きらら「『三つ子の魂百まで』…古い教えだけど、この教えは当たっていると思うわ。もちろん各人、各様に事情が違うから決めつけるのは良くないけど、育児絡みの悲惨な事件や事故が多くなっているのも、こうした親として初歩的な“作業”を手抜きした反動じゃないかしらね」
Yさん「そうですよね。子どもは親を選べないんですもの、しっかり子どもに寄り添わなくちゃいけませんね。何か心の中のモヤモヤが晴れたような…」
予約のお客さんがお見えになったようです。
Yさん「占いもしないのに、思いがけずお世話になったうえ、貴重なアドバイスまで戴いて、本当にありがとうございました。今度は主人も連れて来ますから、色々と“育児講義”をお願いします(笑)」
きらら「じゃあね。Aクン、バイバ~イ」
「きらら館」転じて、「きらら育児館」!?――数十年前を思い出させてくれたひと時でした。
きらら(9/8)