「男の美学」
コロナのせいで多くの企業でテレワークが導入されつつあり、
しかも、年末から来年にかけて大変な時代になりそうだといわれているのに、
都内の到る所に新しい、大きなビルがニョキニョキ。
……素人目にも気になります。
午後2時のお客さまはFさん。
御年72、元財閥系企業の役員で、現在は本人いわく“横丁のご隠居”。
「コロナで外に出ることが少なくなってご無沙汰してしまいました。きららさんにはお変わりありませんか」
「はい、お蔭さまで。Fさんもお元気そうで何よりです。――その節は✿お花をありがとうございました」
Fさんが最初にきらら館にお見えになったのは4年前。奥さまとご一緒でした。
お年を召したご夫婦が揃ってお見えになるのは、きらら館開館以来初めて。
以後、数ヶ月に1度、ご夫婦おふたり、Fさんおひとりの時とまちまちですが、
“相談内容”は、大抵2人のお孫さんのことです。
「先週、下の娘に子どもが産まれてね…(*^-^*)」
「3人目のお孫さんですね。――おめでとうございます」
「また、ご面倒をおかけしますが幾つか候補名を考えてきましたので、このなかから幸せな人生が送れる名前をお願いしますwww」
わたしがFさんを尊敬するのは、長年勤めた企業を定年退職後、数多の企業から「是非、役員に」、「顧問をお願いしたい」と誘われたにもかかわらず、それらを一切、断り“奥さまファースト”の生き方をされていることです。
「入社以来、わたしは持てる力のすべてを会社のために注いできました。わたしに声をかけてくれるのはありがたいことですが、今のわたしは、いわば“燃えカス”です。そんな自分を迎えてくれる組織で禄を食むのは失礼なこと。老兵は後進に道を譲り、これからはこれまで苦労をかけ続けてきた家内に対する罪滅ぼしのつもりでwww、ふたり仲良く、つましく、穏やかな余生を送りたいと思っています」
人生100年時代、人それぞれですが、前○○、元□□と過去の経歴をウリに、生臭い“第二の人生”に歩を進める方がいる方が少なくないご時世にあって、Fさんのような生き方は、素晴らしい!の一語に尽きます。
「いやいや、今までかけてきた苦労の半分も返せるか、どうか…www」
Fさんは、こう謙遜されますが、まさしく「男の美学」の実践者と、わたしは断言して憚りません。