「E名誉教授の“講義”」
明けても暮れても、コロナ、コロナで街中はマスクだらけ。
確かに目に見えない「敵」だけにマスクは必需品。
切ない防御策ですが、終息までは仕方ありません。
今日のお客さまは某大学の名誉教授・E先生。齢82。
専攻は建築学なのですが、とにかく百科事典並みに何でも知っているスーパーマン先生です。
「こんにちは、きららさん。ご無沙汰です」
入口に杖を突いたマスク姿のE先生。
「遅まきながら明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。――でも、杖なんか突いてどうしたのですか、先生」
「昨年、自宅で転んじゃってね。大腿骨を折っちゃって入院、参ったよ。我ながら健脚自慢だったのに1ヶ月も入院したお蔭でヨレヨレ。だいぶ良くなったので、今日はリハビリ替わりにきららさんの顔を見にきたんですよwww」
「そう言われると光栄ですが、無事是名馬也。お大事にしてくださいよwww」
いつものように珈琲に先生の好物の「たねや」のどら焼きを添えてお出しします
「今日も出かける時、娘がマスクを忘れないようにって、やかましく言うもんで仕方なく着けてきたんだが、メガネは曇るし、うっとうしい限りだよ」
「わたしもマスクは嫌いなんですが、マスクを着けていないと電車の中で白い眼で見られるような気がして…」
今や、コロナ肺炎は時候の挨拶代わりの話題です。
「ところで、コロナウィルスって、どこから現れたのですかね。ネズミだ、コウモリだって報道されてましたが…」
「さすがは、きららさん。なかなか良い質問だな」
E先生の“講義”開始を告げる言葉です。
「わたしは未開の土地の開発が原因だと思っているんだが…」
「???」
「5~6年前にエボラ熱が大流行したが、コロナウィルスもあれと同じで、今まで開発されてこなかった大陸に潜んでいたウィルスが、開発によって掘り返され、表に出てきて暴れていると考えるのはどうかな」
「つまりは冬眠中だったウィルスを人間が起こしてしまったというわけですか?」
「禁断の大地に踏み込んできた人間に対するウィルスの逆襲だな。そう考えれば今後、気になるのは地球の温暖化だ。ツンドラや氷山の下に閉じ込められていた未知のウィルスが、氷が融けて地表に這い出てきた時にどうなるか。心配
だな」
「よくよく考えれば人間も自然界の一員にすぎないのに、それを弁えることなく、自分たちの利益や快適で便利な生活のために、わがもの顔で自然を壊してきた報いかも知れませんね」
「父であり、母である地球から見れば、人間は極めつけの親不孝者だわなwww」
その後も、長江を堰き止めて造られた三峡ダムや万年氷が融けているシベリア、南極を引き合いに出しながらE先生の“講義”は1時間余。
「家では嫌がられるのに、わたしの講義を聞いてくれるのは、きららさんだけだよwww」
「先生のお話は、ホントは分かっていないのに、分かっているつもりのことを気付かせてくれる目からウロコの話題ばかり。こちらこそ、いつも本業そっちのけで申し訳ありませんwww。どうかまた足を運んでくださいwww」
「孫が何か占ってほしいことがあるみたいだから、春休みになったら連れてくるから、その時はよろしくね」
「合点承知之助でございますwww」