「夫婦喧嘩は犬でも食わぬ」—1—
敬老の日です。
100歳を越える老人が全国で約70000人とか。
凄いことです。
1世紀を生きたお爺ちゃん、お婆ちゃんに敬礼!
今日の最後のお客さまのAさん。
椅子に座るなり、淹れた珈琲も飲まずに凄い剣幕です。
「主人の何気ない仕草にも腹が立って…もう我慢できません」
「まあまあ、落ち着いて…」
珈琲1杯ぐらいでは治まりそうにありません。
ここは黙って聞くしかありません。
「先生、聞いてくださいますか。昨晩も帰宅したのは夜中。帰ってくるなり、いきなり『風呂は沸いてるか?』ですよ。あまりにも横柄な言い方だったので『お風呂に入りたかったら、自分でどうぞ』って言ったところ、『だからお前はダメなんだ』に始まり、グチグチと1時間のお説教。眠いし、あまりにもしつこいので、さっさと寝室に行こうと立ちあがったところ、また怒りだして、また1時間。ここ3ヶ月ぐらい毎晩こうなんですから…。今夜は帰らないつもりで、離婚届をテーブルに置いて来ました」
熱烈な恋愛の末に結ばれて30年の真珠婚。
2年前にふたりでお見えになった時には、おのろけ話をたっぷりと聞かされたのに、何という変わり様でしょう。
「ご主人にも色々と会社で御苦労があるんじゃないですか?」
「あまり会社のことは話さないのでよく分かりませんが、たとえそうであっても、会社でのストレスをわたしにぶつけるのはお門違いじゃないですか!この年になってベタベタして欲しいとは思いませんが、まるで召使のように命令するような態度には、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、もうすべてが嫌いになってしまいました」
ふたりの相性は90点。
他人もうらやむ「おしどり夫婦」だったのに…。
「ふたりで話し合ったことはあるのですか?」
「主人が我儘だということは最初から分ってましたから、最初のうちは何とか解り合おうと努力したのですが、それにも限度がありますよ」
「何か心当たりは?」
「全然ありません。会社でも順調に昇進していますし、女性が出来たような気配も感じられないし…」
う~ん。困りました。
とはいえ、昔から夫婦喧嘩は犬でも食わないといいます。
それに揉め事は双方の話を聞かなければ…。
「一度、ご主人を連れて来てくれません。わたしがガツンと雷を落としますから…」
「分かりました。主人はきらら先生のファンですから、首に縄をつけてでも引っ張って来ます」
「だから、今日はこのまま真っ直ぐ帰って、離婚届を始末するように…。分かりましたね」