「続・麻布のおかあさま」

「春の来ない冬はない」
約束通り、すっかり春の陽気です。
庭の水仙、菜の花、チューリップが開くのも間もなくでしょう。

(前回の続き)

azabu2Hさん「このお茶、美味しいわね」

きらら「ご主人の故郷の八女茶ですもの(笑)。どうぞ遠慮なく、何杯でも召し上がってください」

Hさん「どこまで話したっけ?」

きらら「ご主人から富士山頂で感謝の言葉を贈られたところです」

Hさん「そうだったわね。そうそう、富士山といえば、九州に飛行機で帰る時は、主人は富士山が見える窓際の席に座りたがったんですよ」

きらら「ヘ~ッ、富士山が大好きだったんだ」

Hさん「子どもたちが小さい時には、『チマチマした生き方はするな。何でもいいから、これぞと思ったことに一心不乱に取り組んで、富士山みたいにどっしりとした人生を送れよ』っていうのが口癖だったわ」

きらら「富士山を”人生の師”と仰いでいらっしゃったんですね」

Hさん「『俺は無神論者だ』って言ってたのに、富士山を見ると神妙な顔で手を合わせたり、お辞儀をしたり、当時は変な人と思っていたけど今、思うと富士山が先生というか、ご本尊様だったのよね」

きらら「確かに富士山は麓で仰ぎ見ても、遠くから見ても神々しい姿ですもの。なるほど、それで社名にも、お子さんの名前にも、『富』『士』の字が入ってるんですね」

Hさん「しかし、辛かったことや悲しかったことも一杯あったけど、先に逝かれてしまうと、思い出すのは嬉しかったことや楽しかったことばかり。不思議なものよねえ。こんな気持ちになるのが分かっていたら、もっと主人と思い出を作っておけば良かったなあと、つくづく思うわ(笑)。――主人のことを話していると、なぜか無性にお茶が飲みたくて、お代わりしていい?」

きらら「どうぞ、ご主人の分まで飲んでくださいな(笑)。そういえば、ご主人が1度だけ、きらら館にお見えになったことがあるんですが、その時に…」

Hさん「エッ!初耳だけど、主人がひとりでお邪魔したの? いつ頃のこと?」

きらら「お亡くなりになる1年ほど前ですが、家内には内緒にしておいて欲しいとお願いされたので、今まで言わなかったのですが…」

Hさん「どんな相談だったの?」

きらら「Hさんはじめ、息子さん、娘さん、そしてお孫さんと、ご家族全員の健康のことでした」

Hさん「自分のことは聞かなかった?」

きらら「『自分のことは分かっているからいい』っておっしゃって…」

Hさん「主人は、もう『自分はそう長くは生きられない』って感じていたのかしら?」

きらら「口には出さなかったのですが、おそらく…。『ご家族の皆さんは懸念無用、全員無病息災ですよ』って鑑定させて戴いたのですが、とっても嬉しそうな顔でお帰りになられました」

Hさん「あの人らしいというか、常に自分のことより、家族のことを最優先で気遣ってくれる人でしたから…。ホント、主人みたいないい人と一緒になれて、わたしは幸せだったと感謝しなくちゃね!――もう一度、生まれ変われることが出来たら、またあの人と一緒になれるかしら?(笑)」

きらら「なれますよ。――今夜はご主人の夢を見ながらぐっすりおやすみください(笑)」

Hさん「初デート記念日にいいお話を聞かせて戴いて、今日は本当にありがとうございました」

深々と頭を下げるHさんの眼には、うっすらと涙が…。

きらら「おかあさま、”娘”にそんな他人行儀なことは言わないでくださいよ(笑)」

きらら(3/7)

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