「今を大切に、今を溌剌と、今を楽しく」

日記Yさんは元小学校の教員。
数年前にご主人を亡くし、現在は自宅で小さな学習塾を開いています。
在職中から3ヶ月に1度、定期的に足を運んでくれるお友達みたいなお馴染みさんです。

そのYさんが憔悴した顔で飛び込んで来ました。

Yさん「先生、もう生きて行くのが嫌になりました」

いつもは占いというより、世間話や愚痴を目一杯しゃべり尽くして、「ああ、すっきりした」と、軽い足取りでお帰りになるYさんなのに、どうしたのでしょうか?

Yさん「嫌な話だけど聞いてくれる?…3回忌も無事に終ったし、主人の遺品を整理していた先日、偶然、日記代わりにしていたノートを見つけたんですが、なんと或る女性への思いを綴った“不倫日記”だったんです」

涙声でさらに話を続けます。

Yさん「しかも、その相手が知らない女性ならともかく、私の友人だったのです。彼女は早くご主人を亡くし、その後は独身で美人です。主人とは、かれこれ20年近く続いていたようで、夫婦気取りで近県の温泉に何度も遊びに行っていたことが楽しそうに書かれていました。結婚生活の半分以上も主人に裏切られていたと思うと、もう悔しくて悔しくて…。ノートは鋏でズタズタに切って捨てましたが、それでも気持ちが治まりません」

無理もないこととはいえ、いつもは冷静なYさんなのに今日は“別人”です。

Yさん「主人とは親の反対を押し切った恋愛結婚でした。平凡でしたが、お互いに信じ合い、助け合ってきた結婚生活と思っていたのに、こんな形で裏切られるなんて…。お仏壇の中の呑気に笑っている主人の写真を見る度に、ますます腹が立って、もうお仏壇なんか捨てようと思う時もあります。先生、私どうしたらいいでしょうか?…このままでは気が狂いそうです」

少しばかりYさんの口調が柔らかくなってきました。

きらら「Yさんとは長いお付き合いです。悔しさは分かるし、ご主人を恨み、お友達を憎みたい気持ちも分かります。でも、過ぎ去ったことをいつまでも引きずっても仕方のないことです。Yさんは、今を生きているのです。ご主人やお友達を恨まず、一日、一日を楽しく生きるように心掛けるべきじゃないかしら」

Yさん「でも…」

きらら「ご主人に対する愛情の深さは分かりますし、年老いてなお“嫉妬の炎”を燃やすことのできるYさんには、同性として羨ましく思います。でも『円い卵も 切り様で四角』です。――ご主人がずっと気付かせないようにしてきたのも、Yさんに対する愛情の表われと見てはどうですか。すべてを許してあげることで、何よりYさん自身の気持ちが楽になると思いますよ」

Yさん「誰にも話してないのですが、この前、孫から『おばあちゃん、怖い!』って言われました(苦笑)」

きらら「人を恨んでいると、人相も悪くなるし、気持ちもトゲトゲしくなるし、第一、塾に来てる子どもたちにまで影響するわよ。…今を大切に、今を溌剌と、今を楽しくよ!」

Yさん「そうですよね。いくら腹を立てても主人は彼岸。詮ないことに怒るなんてバカですよね(笑)」

Yさんの顔にようやく笑顔が戻って来ました。
                                 きらら(5/26)