『裸の王様』
やっと春。
とはいえ天気は日替わり。
トランプ君みたいです。
何年前でしょうか、某大企業のトップを退任して間もないHさんに「社長というポストの居心地」についてお話を伺ったことがありました。
Hさんが『渋谷きらら館』にある方の紹介で、お客様としてお越しになったのは、社長になったばかりの時で、鑑定依頼はお孫さんの命名とご自身の健康についてでした。
以来、忙中に閑を見つけて、鑑定というより“茶飲み休憩”がてらに、年に2~3回ほど足を運んでくれました。
茶飲み休憩の際の話題は、社会問題から政治、経済までバラバラ(笑)でしたが、さすがは社長。
どの話も浅学菲才のわたしにとっては、すべてが新鮮でした。
ある日、ある経済雑誌にH氏についての記事が載せられたのですが、その内容はHさんの退任についての業界の噂話でした。
会社のことなどは全然話したことがないので、わたしにはチンプンカンプン。
Hさんも「あることないこと言われるのも社長の務め」と涼しい顔でしたが、わたしにとってはそんなことよりHさんの“講義”の方が大切でした。
その1年半後、Hさんは社長を退任。
会長職にも留まらず、本人曰く隠居暮らしの道を選択。
Hさんらしい爽やかな処世術には感心させられました。
ご隠居になって間もない時、“講義”のテーマだった「社長という役職」についてのHさんの言葉は、今も鮮やかに覚えてします。
「私にとって、社長というのはある意味、面白かったし、詰まらないポストだったよ」
――どうしてですか?
「耳に痛い言葉が入ってこないから、結局は“裸の王様”になってしまうからだよ(笑)」
――裸の王様?
「周りの声はお追従ばかり、まともな意見はほとんど耳に入って来ないんだな」
――ゴマスリばかりですか?
「でもねえ、ゴマをすられることに慣れると案外、気持ちいいもんだよ(笑)」
――すられるのはどんなゴマですか?
「庭の草取りから私の孫の相手まで全員『御意』以外の言葉を知らないんだからなあ(笑)」
――会社の為ではなく、Hさんに気に入られることが仕事になってしまう?
「人事権を持っているのは社長だから、周りはイエスマンばかりになってしまう」
――長期の在任は、老害病に罹って、結局は“裸の王様”になってしまう?
「トップは惜しまれるうちに辞めるのが花なんだけどな」
――もう“ドライフラワー”になっているのになかなか辞めない花が多すぎる?(笑)
「ドライフラワーでもいいけど、何かあったら真っ先に責任をとるのが社長なんだけど残念ながら、そんな社長はほとんどいないよね(笑)」
――今は不祥事があっても責任は他人に押し付け、社長の座にしがみつく社長ばかり?
「昔と違って役員報酬が上がったことも理由のひとつだろうけど、トップとしての気概がないからじゃないかな」
確かに、近時の貸金庫窃盗事件、顧客に対する強盗、詐欺事件など、前代未聞の事件が起こっても全てが「余きに図らえ」で、その責めを負った社長は皆無。
「何があろうと、ヨイショ、ヨイショに囲まれ悦に入る」…「なんだかな~」と思う図柄です。