『本能』
先月末の寒い日、元高校教師で現在、東北地方の某私大で講師職にあるHさんが久しぶりのご来館。
――お久しぶりです。寒いのにお越し頂いて恐縮です。
「きららさんこそお変わりないようで…」
いつもは占いというより、いつの間にやらHさんの”漫談調の講義”になってしまうのですが、今日はご子息と許嫁の相性相談の由。
独り息子の結婚となると、いつもは「子どもは子ども、親は親」とクールなHさんもさすがに真剣な表情です。
――鑑定結果は、相性度数94点、愛情度数92点で心配ご無用。
奥さまになる方もしっかりしているし、あれこれ口出ししないで、老いては子に従えですよ。
「昨年、先立ってしまった妻にすべて任せていたので何も分からなくて…。
でも、きららさんの言葉でひと安心です」
よほど緊張していたのでしょうか、わたしの鑑定に、いつものリラックスした表情に戻ってお茶をひとすすり。
例によって例の如し、テーマは恒例の時事問題に移行、”講義”の始まりました。
「先週、出生者数72万人、死亡者数161万人、差し引き89万人の自然減と発表されたけど、きららさんはどう思います?」
――う~ん。みんな、今のようなややこしい時代に結婚、出生どころじゃないないのでは…(笑)。
「政府は、おカネがかかる”作業”が原因と考えて様々な補助金を支給しているのだが、にもかかわらず9年連続の出生数減少なんだからピンとこないな」
確かに結婚や出生は損得ではなく、生き物が持つ種族保存のための”作業”であることを考えれば、それをすべてを金銭問題にすり替えるのは浅知恵すぎるような気がしないでもない。
――とすると先生はどうお考えですか?
「うまく説明できないが、生き物としての”本能”のせいだ思っているんだが?」
――本能ですか?
「自然の警鐘というか、『来るべき時代は、あなたたちが子どもたちと生きるのにふさわしい時代じゃないですよ』と告げているのではないかな。
(ニンゲンと魚を同類とするのは乱暴かもしれないが)魚類の中にはある年、突然バッタリと不漁になることがあるのだが、あれと同じ理屈だな。
彼らは水温の変化などでプランクトンが少なくなることを予知できる能力を持っているから、これ以上増えると種族全体が危機に陥ることを知っているから、自発的に卵を産むことを制御するんだよ」
つまり、浅知恵を超越した「ニンゲン本来の能力」が人口増にストップをかけているというわけだ。
本来なら「?」が付いてもおかしくないH説だが、これまでの”実績”を考えれば信憑性ば十分。
残念ながら、まだまだ人口減少は止まらないかも…。