「微妙な匙加減」
さわやかな秋にはほど遠い毎日。
風邪を引いている人も多いようです。
寒暖の差には十分に気をつけてください。
今日のお客さまは、お二人ともエイティ・オーバー、84歳と82歳のご夫婦。
併せて166歳、「きらら館」開館以来の最高齢です。
お年は召していても、杖もつかず、とってもお元気です。
「遠いところをようこそ、いらっしゃいました。渋谷は人が多くて、大変だったでしょう」
「渋谷に来たのは5年ぶりですが、いやあ随分と人が多いですなあ」
煎茶を淹れ、虎屋の羊羹を添えます。
お茶を飲みながら、ひとしきりの世間話。
「ところで、今日はどんなご相談ですか」
「いやいや、今日は、我々のことではなく、お世話になった孫娘のRの替わりにお礼に伺った次第です」
「Rさん?」
「8月ごろに学校の悩みでお邪魔したようですが…」
「はいはい、大学1年生の…」
「高校までは、とってもいい子だったのに大学に入学した途端、家族とも口をきかなくなり、引きこもりみたいになって案じていたのですが、ある日突然、すっかり明るくなってびっくり。訳を聞いたら『きらら先生に会って、目からウロコが落ちたの』って言うものですから…」
「Rちゃん、元気に大学に通ってます?」
「はい。以前以上に明るくなって毎日、楽しそうに行ってます。しかし、何度も親やわたしが言っても聞く耳を持たなかったのに、失礼ですが、赤の他人のきらら先生の言葉で元気な孫娘に戻るなんて…。本当にありがとうございました」
「別に大袈裟のことを言ったのではなく、わたし自身の経験もふまえてアドバイスしただけです」
「本人は、わたしたちには言わないのですが、大学生活の目標ができたみたいで、眼がキラキラ輝いています。――できれば先生の“魔法の言葉”を教えてくれませんかwww」
「漫然とした気持ちでなく、せっかくの4年間で何を学ぶのか。『世間体がどうとかではなく、心からやりたいと思うことを見つけて、それに情熱を注ぐ大学生活を送って欲しいし、Rちゃんならそれができますよ』って背中を押しただけです」
肉親でなければ言えないこと、肉親だからこそ言ってはいけないこと。他人でなければ言えないこと、他人が言ってはいけないこと。――人生に影響を与えるのは「微妙な匙加減」です。