「明日は明日の風が吹く」
気のせいか、長いお休み後の渋谷の街は何だか連休疲れの気配www。
「めでたさも中くらいなり10連休」――何事も程々がいいようです。
昨年秋。
疲れた顔のAさん。
座るなり無言のままで大きなため息。
「どうしたの。――さあさ、珈琲でも飲んで、リラックス、リラックス。挽きたての豆だから香りがいいでしょ」
「ありがとうございます。いただきます」
ひと口飲んで落ち着いたのか、ようやくの笑顔。
「ちょうど喉がカラカラで。美味しい~。でも、あちこちの占いに行きましたけど珈琲のおもてなしは初めてです」
「珈琲タイムは、時間にカウントしないから気にしないでゆっくり飲んでね」
「お代わりしてもいいですか」
珈琲カップを掌に包み込みながら、「実は受験のことで…。今、大学受験のための予備校に通っているのですが、来年もダメじゃないかと思うと勉強が手につかなくて…」
生年月日をお伺いして総合運を占いました。
「性格は、良くいえば真面目、悪くいえば真面目過ぎ。――寝ても覚めても『負けちゃいけない、わたしならやればできる、だから頑張らなくちゃ』、と思い込むタイプよね」
「はい。何でもキチンキチンとやらなければ、自分自身、納得できないんです」
「そういう頑張りがあなたの良いところなんだけど、もう少し肩の力を抜いて、アバウトに生きてみたら…。持って生まれた性格だから、一朝一夕には治らないけど、別に100点を取らなきゃ合格できないわけじゃないし、乱暴な言い方だけど、精一杯やるだけやったら、明日は明日の風が吹くぐらいの気持ちになれば楽よ」
「でも、それじゃあ他の受験生に負けるんじゃないかと…」
「受験に限らず、他の人のことをあれこれ気にしないで、『自分は自分、他人は他人』と思えない?」
「それはそうなんですけど、ついつい…」
「世の中に完全無欠な人間なんていないんだから…。今までの価値観を思い切って捨てるのは怖い気がするかもしれないけど、時代は猛スピードで変わっているんだから、あなたも古い荷物を降ろして変わらなくちゃ!――ちょうど今月末から、あなたには大きな変化★が回ってきます。AIみたいに完全というのは息が詰まるし、案外つまらないもの。常に完全であるべしという殻を打ち破ってみたら…」
「先生のおっしゃることは分るのですが…」
「完全、真面目、律儀――どれもこれも良い言葉だけど、それが自縄自縛の原因でもあるわけ。張り詰めた気持ちは、伸びっぱなしのゴム紐と同じで、たまには緩ませてあげないと…」
「う~ん。わたしに出来るかな?」
「あなた自身が変われば、すべてが変わる。――あなたなら出来るわよ!」
「は、はい。――“変心”してみようかな」 (続く)