「『徳』なくしてリーダーの資格なし」
寒の戻り。
寒暖の差は体調を崩し勝ち。
衣替えはもう少し先にお預けです。
わたしが人生の達人とリスペクトするお爺さまがふらりとご来館です。
「家内と前の東急百貨店まで買い物に来たもので、ちょっときららさんの顔が見たくて…」
「ようこそ。お久しぶりです。でも買い物にはお付き合いしなくていいのですか?」
「地下から最上階まで家内のお供をするのは苦手でねwww」
珈琲通のお爺さまのために腕によりをかけて南アフリカ産の珈琲を淹れます。
「暑くなったり寒くなったり変なお天気ですね」
「科学は進歩しても一向に進歩がないどころか、退化しつつある人間に、天の神様が怒っているのかもしれませんねwww」
いつもながらのウイットに富んだ答えが返って来ました。
「この歳になると段々、欲がなくなってくるのと比例して、段々と世の中が見えてくることで、人間という不思議な生き物が何だか愛おしく思えてね」
相槌を打つものの、分かったようで、分からないお爺さまの“禅問答”には、たとえピント外れでも、素朴な疑問をぶつけるしかありません。
「これまでの人生で、多くの地位のある方と接してきて『これは!』と思った方は何人ぐらいらっしゃいましたか?」
「ひとりだけだな。わたしが『馬前に死す』と思えたのはKさんだけですね」
わたしが敬愛するお爺さまにそこまで思わせるからには、相当な人物に違いありません。
「ひとりですか。Kさんってどんな方ですか?」
「世の中には権力を持つ者やお金持ちはいっぱいいるけど、Kさんほどの大人物には出会わなかったな」
寡聞にして、聞いたことがない名前です。
ますます興味が湧きます。
「Sさんは絶大な権力を持っていたし、カネを動かす力も半端じゃなかったけど、Kさんには、世間で偉い人、凄い人と称賛されたリーダーが持っていない『徳』がありましたね」
「『徳』ですか?」
「そうです。『徳』だ。権力があろうと、おカネがあろうと、それだけで『徳』というものは身につきません。なぜならば、『徳』はその人の人間性そのものが生み出すものだからです」
う~ん。凡なるわたしには、ますます分かりません。
「権力を失えば権力に倍返しで仇を取られ、カネの力を過信する者はカネに足許を掬われます。しかし、『徳』は他人がどうこうすることができない不可分の財産ですからね。小さくてもいいからコツコツと『徳』を積む。それこそが人間にとってもっとも大切なことだと思います」
『徳』――よし。わたしもお爺さまの言葉通り『徳』を積めるよう頑張らなくちゃ!