『陰徳を積む!』

4月は出発の月。

その4月に合わせるかのように桜花満開。

得意淡然。

人間より桜の方がお利口さんかも…?

駅に向かう途中、道路を掃除しているお婆さまに毎日のように出会います。

年の頃は80歳前後でしょうか。
背筋をピンと伸ばして無心に道路を掃く姿には気品すら漂っています。

「こんにちは」

最初は頭を下げる程度でしたが、いつしか、立ち話をするようになりました。

「今日は暖かいですね」

「夕方から雨が降るそうですよ」

他愛ない会話ですが、それも毎日のことになると、たとえお名前も分からなくても、何となくお友達になったような気がするから不思議です。

お婆さんのお蔭で、落ち葉ひとつない道路を歩くのは気持ちいいものです。

が、それを当たり前と思っていいのか。

わたしの心に、「わたしも何かお手伝いしなければ…」という気持ちが湧いてきました。

或る日、いつもより早めに家を出て、思い切って声をかけました。

「何かお手伝いできることはありませんか」

「いいんですよ。こうやって道路を掃くことを日課にすれば運動にもなるし、皆さんが気持ちよく歩くことで、何かいいことがありそうでしょ」

「お掃除のお蔭でしょうか、傘寿を過ぎても、この通り足腰はしっかりしてるし、前屈すれば手が床に着くんですよ(笑)」

「そんなことより、早く行かなきゃ電車に遅れますよ」

笑顔とともに、凛とした、しかし全然、嫌味のない言葉が返ってきました。

「亀の甲より年の功」――頭が下がります。

大それたことでなくても、名も知らぬ人たちを思ってコツコツと掃除をする。――こうした姿勢を「陰徳を積む」というのでしょうか。

その日を機会に、お婆さんの顔を見るだけで、心が晴れやかになります。

自分の健康に寄与するばかりか、道路をきれいにすることで、その道を歩く人々の心まで明るくする。――まさしく一石三鳥!――「陰徳を積む」ことの効果は絶大です。

きらら(4/3)