『A先生は元鬼検事!』
またたく間に2月です。
十代の頃には時の経つのが遅かったのに、歳を重ねるに従って段々、時間の速度が速く感じられます。
なぜなのか。
「物理的には同じ時間でも、年齢と共に接する人が多くなるからじゃないですか」
「なるほど!」
その疑問に簡単明瞭に答えてくれたA先生が、今日のお客様です。
A先生は検事を定年退職後、現在は弁護士をなさっています。
先生との出会いは、名古屋に出張鑑定に行った帰りの新幹線の中でした。
旅は道連れ世は情け。――同年代のせいか、いつとはなしに話が弾みました。
季節のこと、健康のこと、子どものこと、各地の名産品のことなど他愛もない話題ばかりでしたが、その際に出てきたのが、先程の「時の速さ」の件です。
いつもは居眠りする電車の旅もA先生のおかげであっという間でした。
降り際に名刺を交換、初めて弁護士をなさっていることを知ったのですが、道理でお話が論理的だったことに合点が行きました。
弁護士といえば、どこか理屈っぽくて、とっつきにくいイメージがあったのですが、A先生は気さくで全然、法律家らしくなく、それこそ幼稚園の園長さんか、小学校の校長先生のような雰囲気の方です。
「近いうちにお邪魔させてもらおうかな」
「はい。渋谷に来ることがあったら是非、足をお運びください」
外交辞令的な?挨拶で東京駅でお別れしたのですが、なんとその日から約1ヶ月後の日曜日、A先生がご夫婦でお見えになりました。
「家内とT百貨店まで買い物に来たので寄らせてもらいました」
「先日は、色々と楽しいお話をありがとうございました」
「家内に、あなたのことを話したら是非、観てもらいたいというもので…」
「それは、それは…」
A先生の奥様の相談は、4日前に生まれた末娘の2人目のお子さんのお名前を付けて欲しいというものでした。
「主人に相談しても『名前なんか単なる記号だ。太郎でも、花子でもいいじゃないか』と無責任な返事しか返って来ないんですから…」
「まあ、単なる記号だなんて。先生、その考えは間違ってますよ。次の時代を生きるお孫さんに対して失礼過ぎます」
「そうかな」
「そうかなじゃありませんよ。せっかく娘さんが頼んできたのですから、愛情を持って命名してあげるのが、おじいちゃん、おばあちゃんの責務です」
新幹線であれこれ教えていただいた恩?も忘れ、ついつい強い口調になりました。
「そうですよ。きららさん、もっとガツンと言ってやってください」
奥様が加勢してくれました。
2対1。――こうなれば多勢に無勢です。
「分かった、分かりました。きららさんにお任せ致しますので、よろしくお願いします(笑)」
「良かったわ。きららさんが強く言ってくれなかったら、どうなったことやら。検事時代の上から目線の物言いが未だに抜けないんですから…」
「エッ、先生は検事だったんですか?」
元とはいえ、泣く子も黙る?検事さんに対してお説教とは…。
「いいんですよ、きららさん。皆さん、元検事といえば、怖いイメージがあるせいか遠慮して何も言わないんですから。きららさんみたいに是は是、非は非と、はっきり言ってくれる人こそが大切なのよ、あなた!」
元鬼検事?も奥様の一喝で轟沈!ーー今でも思い出すと、笑いがこみ上げてきます。
さて、今日のA先生はどんな相談をお持ちになるのか?
また、奥様と一緒かな?
楽しみです。