「月下氷人」
暑さ寒さも彼岸まで…。
秋までもうひと息。
残暑に負けず頑張りましょう!
「ああ、暑いわねぇ、毎日!」
挨拶もそこそこに飛び込んで来たのはDさんです。
Dさんは、『きらら館』開館以来のお客様。
多くのお弟子さんを持つ華道のお師匠さんです。
今年で傘寿。
歩く姿、肌のつや、声の張り――どこから見ても八十歳には見えません。
わたしにとっては姉というより、母親のような存在です。
きらら「”お母さま”もお元気そうで何よりです」
Dさん「東京のオリンピックを観るまでは元気でいなくちゃね」
お孫さんが、東京五輪目指して頑張っているとかで、元気溌剌です。
Dさん「今日もまた、お弟子さんのお見合い相手を鑑定して戴こうと思って…」
Dさんが、縁結び役をされるのは、かれこれ10組を越えています。
ご自慢は、これまで月下氷人として橋渡し役をしたカップルは、唯のひと組も離婚していないことです。
Dさん「きららさんに鑑定してもらったカップルは間違いないからね、今日も頼むわよ(笑)」
連勝記録を途絶えさせては「きらら館」の名折れ!?
鑑定にも、ついつい力が入ります。
ン?――今回のカップルは、どうもしっくりしません。
何度も鑑定しましたが、わたしの相性度数は76点。
いくらDさんが持参したカップルでも、”上げ底”にするわけにはいきません。
きらら「今回のカップルは、うまく行かないような気がするんですが…」
Dさん「やっぱりね!」
「やっぱりね」とは、ハテ?
Dさん「実は――彼の方は、ご両親も含めて大乗り気。明日にでも結納したいような勢いなんだけど、問題は彼女の方なのよ。本人は嫌だとは言わないんだけど、何だか気乗りしないような雰囲気なのよ」
きらら「彼の方は今、結婚期の真っ只中。本気で結婚したいと思っているのですが、彼女の結婚期は再来年です。それに、彼女には『現在、お付き合いしている彼』がいると出ています。”お母さま”が、気乗りしないように感じるのは、そのせいではないでしょうか?」
Dさん「なるほどね」
きらら「今回の縁談は、性急にコトを運ばないで、もう少し様子を見られてはいかがですか?」
Dさん「お相手の方は、彼女にとって”三国一の花婿”なんだけど――結婚するのはわたしじゃないし、無理に結婚させるわけにはいかないからねえ(笑)」
きらら「『待てば海路の日和あり』――ふたりとも素直な性格で、良いモノをお持ちなんですもの、”その時”さえ来れば、きっと相性度数90点以上のパートナーが見つかると思います」
Dさん「『迷ったらきららさんに従え』(笑)――今回は縁がなかったということにします」
きらら「畏れ多いお言葉で、”娘”としては汗顔の至りで~す(笑)」
きらら(9/12)