「人生はヤル気がすべてです!」

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お爺さまが3人、お婆さまが7人。
併せて丁度10人。
「きらら館」に定期的に足を運んで下さる80歳以上のお年寄りの数です。

元大学教授あり、元大企業役員あり、現役デザイナーあり、書道の先生あり、華道の先生あり、日舞の先生あり――多士済々、錚々たる人生の先輩方ばかりです。

開館早々の正午。その中のひとりSさんが久しぶりに顔を見せてくれました。

Sさん「こんにちは。(ふ~っ)」

きらら「先生、今日も階段を上がって来られたんですか?」

Sさん「運動代わりですよ。足腰が弱っては、お弟子さんにも示しがつきませんからね」

きらら「でも、エレベーターがあるんですから、今度からは…」

Sさん「若いのに何言ってるの。8階ぐらいなら、まだまだ大丈夫ですよ。きららさんも階段を歩かなきゃダメよ(笑)」

きらら「分かりました。努力します(笑)」

今年で米寿。Sさんの前では、わたしも“子供”扱いです。

Sさん「いつもは紅茶だけど、今日は珈琲がいいわね」

勝手知ったるリクエストです。

きらら「昨日、新しい豆を挽いてもらいましたので、それを淹れますね」

大抵の場合、これといった相談もなく、近況報告と世間話で1時間というのがSさんのパターンです。
今日も、話の切り出しは、アメリカ在住のお弟子さんの招待旅行でした。

Sさん「良かったわよ~。見るもの、聞くもののすべてが新鮮で、驚きの連続よ。もっと若い時に行ってれば、わたしの人生も変わったかもね(笑)」

目を輝かせながら話をされるSさんは、とても88歳には見えません。

Sさん「わたしが行ったのは、アメリカでも田舎だったんだけど、行けども行けども、ずーっとトウモロコシ畑が続いていて、それが途切れると、今度は果てしない綿花畑。すっかり度肝を抜かれてしまったわ。それに川も大きいし、山もみんな大きいし、あのスケールには圧倒されちゃったわね。振り返れば、あんな大きな国と日本は戦争したんだから、負けたのも無理はないと、つくづく思ったわ(笑)」

きらら「そうなんですか」

Sさん「それにアメリカで感心したことは、日本ではすぐに『お歳は幾つですか?』なんて聞かれるけど、向こうでは誰もわたしの年齢を聞こうとしないのよ」

きらら「女性に年齢を聞くのが失礼だからじゃないのですか?」

Sさん「わたしも最初はそう思ってたけど、そうじゃなくて、わたしより2歳年上の牧師さんがこう言ってたわ。――『この世に生を受けた以上、寿命の長短はあっても、生ある限り、年齢に関係なく、世のため、人のために切磋琢磨するのが人間としての務め。人生に必要なのはヤル気。頑張ることに年齢なんか関係ない!』ということらしいのよ」

きらら「なるほど!」

Sさんの独壇場。わたしは専ら聞き役です。

Sさん「アメリカ旅行は、冥途の土産のつもりだったけど(笑)、その牧師さんから、わたしは、『年齢のことなんか忘れて、もう少し頑張りなさいよ』というお金で買うことができない“気力”を貰ったような気がするのよ」

きらら「すばらしいお土産ですね。――そういえば、今日のS先生は、この前に比べて5~6歳若返ったような…(笑)」

Sさん「お世辞はいいから、May I have another cup of coffee!(笑)」

きらら「あらら~(笑)。じゃあ、わたしもCertainly,sir!」

またまた、今日もわたしがS先生から気力を戴きました。

きらら(11/16)

photo credit: Harleys on Route 66 via photopin (license)