「人の世は籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人」

3811494433_b887c15865『送る月日に関守なし』――早いもので、今年もあと3ヶ月。
すべての人に時間は平等に割り当てられているはずなのに、歳をとるとなぜか時間の流れが早く感じられます。

さて、今日の最初のお客様はUさん。
前回はご両親の健康の相談でしたが、今回は、有名私立小学校に通うひとり息子のA君のこと。

ご主人はT大、UさんもO大。揃って難関国立大学の卒業です。
席に着くなり、堰を切ったようにUさんが話し始めました。

Uさん「子どもが全然、勉強しないんです。もう、どうしたら良いか分からなくて…」

おふたりとも優秀な大学を出ているだけに、歯がゆくて仕方ないのでしょう。

Uさん「小学校入学当時はとっても良い子で、習い事も嫌がらずに行っていたのに、今は塾へも行かず、学校から帰った途端、自分の部屋に閉じこもって…」

小学3年生から引きこもり?

きらら「お部屋で何をしてるの?」

Uさん「ずっとお魚図鑑とにらめっこしてるんです」

きらら「お魚図艦?」

Uさん「そうなんです。以前、『将来、何になりたいの?』って聞いたことがあるんですが、『漁師さん!』って…」

きらら「他愛ない夢とはいえ、ちゃんと自分の目標を持ってるんだからしっかりしてるじゃない。心配することないわよ」

Uさん「そして『漁師さんになって一杯、お魚を観察して、その次は水族館の館長さんになるんだ!』って…」

きらら「小学3年生で、きちんと将来の設計図が書けるなんて凄いことよ。わたしは彼のことを偉いと思うわよ。…ちょっと鑑定してみるわね。彼の生年月日は?」

あまりにA君のことを誉めたせいか、Uさんは不満気な?表情です。

きらら「性格は、『集中力抜群で余人の追随を許さない一芸に秀でる頑固な職人気質』、職業は『務め人には不向き。適職は、研究者、芸術家、小説家』――ズバリじゃない!漁師になるか、水族館の館長かはともかく、わたしはA君の現在の気持ちを大切にしてあげるべきだと思うわ」

Uさん「『俺の子ならT大に進むのが当然だ』っていうのが口癖の主人は、『お前がキチンと育てないから、Uが勉強しないんだ』って、わたしの顔を見るたびに小言ばっかりで…」

きらら「お言葉ですが(笑)…T大、T大って大騒ぎするご主人が間違ってると思うわ。
『籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人』――人それぞれに役割があってこその世間であり、世の中の人が全員T大卒だったらどうするのよ?(笑)」

Uさん「無形文化財級の陶芸家だった主人の父親、Aにとってはお爺様の血を引いているのかしら?」

きらら「そうかもしれないわよ。お爺様の生年月日は?」

Uさん「そういえば、顔つきもどことなく似てきたし…」

きらら「あらまあ、何から何まで、お爺様とそっくりだわよ。血は争えないものとはいえ、これほどまでに似るのは滅多にないことよ」

Uさん「お爺様くらいになってくれれば良いんだけど(苦笑)、あんなに徹底して勉強嫌いだと…」

きらら「Uさんのこと、毎日毎日『勉強しなさい、塾に行きなさい』ってシカメ面してるんでしょ!(笑)」

Uさん「そう言わなきゃ、わたしの気持ちが落ち着かないし、言わなきゃますます勉強しないだろうし…」

きらら「それがいけないのよ。反対に『学校の勉強なんかいいから、誰にも負けないぐらいお魚の勉強してみたら』って“激励”してみたら…(笑)」

Uさん「そうすれば勉強するようになるかしら?」

きらら「A君は、周りからガミガミ言われると、心では勉強しなくちゃと思っていても、かえって反発する天の邪鬼みたいなところがあるから…」

Uさん「Aが勉強するようになるなら、わたし、何でもやります」

きらら「そんなに肩に力を入れて言っちゃあ、A君だってビックリするわよ。もっと自然な形でいわなくちゃ(笑)」

きらら(10/5)

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