「お・も・て・な・し」(続)

121185017_ebba346988 予定の1時間があっという間に過ぎました。

きらら「帰りの電車の時間、大丈夫?」

Cさん「大袈裟ではなく、今日は今後の自分の人生をどうするか?を決めて帰るつもりで上京して来ました。今まで、何度も両親に相談したのですが、『我儘ばかり言わないで辛抱しなさい』、『女将を見習いなさい』ってワンパターンの回答ばかりで頼りになりません」

きらら「あなたを育て、良いところも悪いところも知り尽くしたご両親の言葉を、そんなふうに決めつけるのはどうかしら?」

Cさん「もちろん両親には感謝していますが、それとこれとは別です」

きらら「さっきも言ったけど、我が道を往くのも、それも時期と場合によっては、善意が相手に伝わらないどころか、反対に悪意に取られることだってあるのよ。ましてや温泉旅館というサービス業なら尚更のこと。ご両親の言葉を凝縮すれば『もう少し相手の気持ちを考えて頑張りなさい』っていう意味だと、わたしは思うわ」

Cさん「それは分かっているつもりですが…」

きらら「『つもり』じゃダメよ。『分かった』じゃなければ…」

Cさん「でも…」

きらら「あなたは納得すれば、どんなことにも挑戦してやろうとファイトを燃やす“努力☆”を持っています。虚心坦懐、素直になって相手の言葉に耳を傾ければ必ず花が咲くのが、この☆の持ち主です。繰り返すけど、Cさんの場合、『なぜお義母さんはこんなことを言うんだろう?』と考えることなく、自分の考えを口にしてしまうから、ちょっとしたことでも衝突。しかも、善意と善意の衝突だから、かえって小さなシコリが残ってしまい、それが積もり積もって、やがては引っ込みのつかない大事になってしまうのじゃないかしら?」

Cさん「…」

きらら「相手の立場を忖度して行動する。――それこそが『お・も・て・な・し』のエッセンスだと思うけど、どうかしら?」

暫しの沈黙の後、Cさんが笑顔で口を開きました。

Cさん「何だか、大騒ぎしていたわたしが馬鹿らしくなってきました。心を入れ替えて頑張ります」

きらら「そうよ。頑張って!」

Cさん「でも、同じ言葉なのに、初めて会ったきらら先生の言葉だと、素直に聞けるなんて不思議ですよね」

きらら「それが『ご縁』。今日、Cさんと会ったのも『ご縁』。旅館にお見えになるお客様との出会いも『ご縁』。――これからは『ご縁』を大切にしてください。ところで、Cさんには『風雅の☆』が大きく輝いているけど、何か習い事なさってるの?」

Cさん「はい。大学時代は俳句部のキャプテンを、そしてお義母様に生け花と茶道を教えて貰っています」

きらら「俳句部のキャプテン? ねえねえ、わたしに俳句を教えてくれない? 以前から、習いたかったのよ」

Cさん「きらら先生は、悩み深き若女将の『人生の恩人』ですもの、お安いご用です(笑)。堅苦しく考えずに、素直な気持ちで感動を『五・七・五』で詠めばいいんです。――アレッ、素直な気持ちで感動を詠むなんて、偉そうなことを言っちゃって…(笑)」

『神の湖 泰然として 春を待つ』 (仙祥)

きらら(3/15)

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