「怒るより利口で可愛い阿呆になれ」

新幹線Jさんは「きらら占い教室」の生徒さんのなかで最年長者です。
御年80ン歳。
月に一度、遥々西宮市から新幹線に乗って通ってきます。

私の母親と言ってもいいくらいのお歳なのですが、立ち居振る舞いはもちろん、考え方も昭和初期のお生まれとは思えないほどの若々しさです。

お勉強の後は、恒例のコーヒータイムです。

「このケーキ、並ばないと買えないほど、三宮で大人気なのよ。どう、美味しいでしょ?」

「この前、下の娘の孫、そうそう、きららさんに命名して貰ったあの孫が来てね、『お婆ちゃん、肩を揉もうか』って言うから、お願いねって頼んだら、案の定よ。ちゃっかりとゲームソフト買わされちゃったわよ」

「どう、今日のブラウスの色? スカートとピッタリの色合いでしょ!」

「ねえ、ねえ。来月の句会で発表する俳句だけど、どれがいいかしら?」

「この前、通販でこのクリーム買ったんだけど、肌にしっとりしていいわよ」

食べ物の話から始まって、次に孫自慢、そして趣味、ファッション、化粧品、健康食品、果てはボヤキまで。――私は完全に聞き役、Jさんのワンマンショーは止めどなく続きます。

以前、Jさんに人生を溌剌として生きる秘訣を聞いたことがあります。

「辛いこと、苦しいこと、悲しいこと――人生には色々あるけど、この歳になって分かったことは、すべては心の持ち方次第っていうことね。たとえピンチになっても『何、クソ!』って、常に前向きに取り組めば、意外と道は開けるものよ。これ、京都のお坊さんから戴いた色紙なんだけど、私は居間からトイレまで、家中に飾ってあるの。今日帰ったら、きららさんにも送るから…」

後日、送られてきた色紙には、可愛い仏さんの絵の回りには墨痕黒々と、こう書かれていました。

『怒るより 利口で かわいい 阿呆になれ』

『焦らず 慌てず 諦めず 人生ぼちぼち行きまひょう』

『人生は 辛さを味わって 優しさを学ぶもの」

『目くばり 気くばり 思いやり 優しい人がエエな~』

『人から学ぶ人生哲学 出逢いは大事にしなはれや~」

『花よりも 笑顔で 花を咲かせる 土になれ』

はてさて、今度はどんなお話を聞かせてくれるのかしら?――Jさんが上京してくるのは節分の日です。

きらら(1/27)