「電車の中の人間模様」
真向かいの高校生は一生懸命、参考書に黄色いマーカーで線を引いています。
最近では珍しい光景です。
中間試験に備えての勉強なのかしら。
それとも、これから向かう塾の予習かしら。
「頑張ってね!」――ついつい応援したくなります。
その左隣のサラリーマンらしき中年男性は鼾こそかいていないものの、大きな口を開けて居眠りしています。
お仕事疲れかしら?
会社ではヨロイをまとった企業戦士。
そして家庭に帰れば、良きパパ、良き夫。
「男はつらいよ?」…ついつい同情してしまいます。
右隣りは白髪頭の凛としたお爺様と上品な顔立ちのお婆様です。
これからお通夜か、お葬式に向かうのでしょうか、ふたりとも喪服姿です。
お亡くなりになったのは御親戚なのか、親しいお友達なのでしょうか。
時折、額を寄せあって小さな声で話をしています。
お爺様がお婆様の手をとって下車しました。
「いつまでもお元気で」…微笑ましい姿にはついつい声をかけたくなります。
私の隣りの中学生はスマートフォンのゲームに没頭しています。
何故そんなに夢中になれるのか、私には理解不能ですが、「やったあ!」…画面をクリアさせる度に顔を紅潮させています。
「視力が悪くならないのかしら?」…ついつい心配になります。
向こうの座席では、若いお母様が赤ちゃんに歌を歌っています。
赤ちゃんは、キャッキャッとはしゃいでいます。
邪気のない声には心が癒されます。
「♪咲いた~咲いた~♪」…懐かしい歌に、ついついン十年前の子育て時代を思い出します。
そのお隣りの背広姿の青年は膝に置いたパソコンを睨んでいます。
電車内でお仕事なんて、昔はついぞ見られなかった光景です。
裁判用の資料を作っているのでしょうか、襟には真新しい弁護士バッジが光っています。
「どんな事件なのか?」…ついつい聞いてみたくなります。
出入り口に立っているジャンパー姿のおじさんは赤いサインペンでスポーツ新聞に印をつけています。
競馬?それとも競艇、競輪?
勝負師らしく(?)一心不乱です。
「ほどほどにね!」…ついつい心配してしまいます。
あっ、そろそろ降りなくちゃ。
きらら(10/21)
電車の中の人間模様は人生の縮図です。