「心燃やして最期の最後まで」
春は別れと出会いの季節。
ちょっぴり寂しい、そして夢がふくらむ季節です。
Fさんが久しぶりのご来館。
わたしが、都内Tホテルで開催された占いイベントに出演した際の初めてのお客さまです。
ご主人を結婚後まもなく交通事故で亡くして以後、女手ひとつで育てたご子息の縁談やお孫さんの命名など事あるごとに訪ねてくれて10余年。
わたしの亡き母にどことなく似ているので、勝手に「品川のお母さま」と呼んでいるのですが、そのFさんも今年で喜寿。
お客さまというより、大袈裟にいえば“刎頚之友”的存在です。
「あの時は~」
「そういえば~」
「わたしたちの時代は~」
「亡くなった主人がね~」
ご主人との思い出話で締めるのをはじめ、メニューは毎回ワンパターン。
何かを占うというより、ほとんどがFさん自身の人生回顧談。
ほぼ同じ時代を生きたわたしにとっても、昔を思い出させてくれる楽しいひと時です。
さて、そのFさん、今日はいつになく神妙な表情です。
「実は、息子に会社からアメリカの研究所に転勤するようにと辞令が出たんだけど、息子が『母さんひとりを日本に置いて赴任するのは心配だから、一緒に行かないか』って言うんだけど…」
「ご家族全員で行かれるんでしょ。いいじゃないですか。お母さまは足腰もしっかりしているし、人生、何事も経験です。わたしは賛成、大賛成ですよ(笑)」
「そう簡単に賛成ですなんて言わないでよ。今年で77歳よ。もう十分に経験したし、今さら『人間到るところに青山あり』でもないでしょ(笑)」
「年齢は関係ありませんよ。それにお母さまの座右の銘は『心燃やして最期の最後まで』じゃないですか。らしくありませんよ」
「息子の話では、最低でも5年間は帰れないらしくて…。孫も『おばあちゃんが行かなきゃ、僕も行かない』って駄々をこねるし…」
「占いでも、お母さまの運勢は『晩年に大輪の花咲く。常に精進すべし』と出てますよ」
「う~ん。きららさんなら反対してくれるんじゃないかと期待していたんだけどなあ」
「いくらお母さまのご依頼でも『是は是、非は非』というのがわたしのモットーです。忖度は致しません!(笑)」
「アメリカに行くと、きらら先生にも会えないし…」
「お母さまの声が聞きたくなったら、わたしから電話しますよ(笑)。今は、PCで相手の顔を見ながら会話もできるし…」
「英語も全然喋れないし、知り合いも全然いないし…」
「『ノンちゃん雲に乗る』(石井桃子著)ならぬ『お母さまアメリカへ』――昔と違って通訳してくれる便利な器械もあります。向こうで5年間もいれば、おのずと喋れるようになりますよ」
「きらら先生がそこまで言うなら、思い切って…」
「Hello,~」――お母さまのアメリカからの元気な声が今から楽しみです。