「死んで花実が咲くものか」-1-

残暑お見舞い申し上げます

2015年8月盛夏
きらら館・スタッフ一同

朝夕は幾分涼しくなりましたが、日中の暑さは相変わらずです。
「暑さ寒さも彼岸まで」――あと1ヶ月余りです。呉々もご自愛ください。

8366535761_731f02ecf5お盆が来ると鮮明に思いだすお客様がいます。
エンジニアのSさんです。

Sさんがお見えになったのは、数年前の8月某日。
今日と同じように暑い日でした。

午後一番のお客様の鑑定が終り、ひと息入れている時でした。

Sさん「ごめんください」

次のお客様までは、まだ少し時間があるのに……ハテ?

きらら「どうぞ~。お入りください」

Sさん「階下の看板を見たのですが、よろしいですか?」

初めてのお客様です。
どこか思い詰めたような表情が気になりましたが、暑いのに背広にネクタイのナイスミドルです。

きらら「暑かったでしょう。どうぞネクタイを緩めて涼しい風を入れてください」

椅子に座っても、うつむいたままです。

きらら「珈琲は如何ですか?」

Sさん「大好物です。戴きます」

珈琲を飲んで落ち着いたのか、ようやく顔を上げて話し始めました。

Sさん「美味しい珈琲ですね。何という銘柄ですか?」

きらら「トルコ産の珈琲です。ちょっと変わってますけど、美味しいでしょ」

Sさん「そういえば、若い時に仕事の関係でギリシャに赴任していた時に、よく飲んだ味ですよ。懐かしいなあ」

しばしの珈琲談義――なかなか本題に入りません。

Sさん「実は今日、僕は自殺するつもりで渋谷に来たのです」

思いがけない“告白”にびっくり仰天です。

きらら「エッ!駄目ですよ、自殺なんかしちゃ!」

いつもはお淑やかな(?)わたしですが、つい動転。思わず声が大きくなりました。

Sさん「学生時代に遊んだのも渋谷、2年前に逝った家内と知り合ったのも渋谷、ふたりでデートしたのも渋谷。結婚後にアパートを借りたのも渋谷です。生まれは北陸ですが、渋谷は僕にとっては“ふるさと”以上の街なんです。――あの世の妻への土産話にしようと思ってブラブラしていたところ、目についたのが、ビルの前の『きらら館』の看板でした。今まで占いなんか全然、興味がなかったのですが、きららさんの顔写真が僕を呼んでいるような気がして…」

真剣な話しぶりは、とても冗談とは思えません。
ここは何としても、自殺を思いとどまらせなければいけません。

きらら「そうです。わたしがお呼びしたのですよ(笑)」

座布団を貰えない?ぎこちないジョークですが、わたしも必死です。

縷々、話を聞けば――ご両親は既に他界。子宝に恵まれぬまま、熱烈な恋愛の末に結ばれた奥様は結婚生活30年目にガンで夭逝。兄弟はいないので、今や天涯孤独。――この世に一片の未練なしというのが自殺の動機でした。

しかし、思い詰めているSさんの考えを頭から否定しては逆効果になりかねません。

きらら「わたしは、『生きる』ということは、自分の力で『生きている』というのではなく、何かの力で『生かされている』と信じています。それなのに与えられた命を自分で断つというののは、どんな理由をつけようと、人として許されることではありません。自殺は絶対にダメです」

Sさん「その通りかもしれません。しかし、何もかも失くした今は、何のためにこの世にいるのか。生きようという気力が湧かないのです」

きらら「Sさん自身気がついていないだけで、血が繋がっていようと、いまいと、まだまだSさんを必要としている人は、世の中に一杯います。漠然とした言い方ですが、命ある限り社会に貢献しようと努力するのが人間としての務めじゃないでしょうか。第一、亡くなられた奥様だって、そんな弱い気持のSさんに『わたしが愛した人は自殺なんかする弱虫じゃない!』って幻滅すると思いますよ」

Sさん「そうかも知れませんが…」

まだ少し重い空気です。

きらら「わたしが呼びとめた手前(笑)、Sさんの今後を鑑定してみますね」

Sさんの表情がちょっと緩みました。

きらら「今は陰の極ですが、そんな気持ちも間もなく雲散霧消。秋頃、10月初旬から運気は一転、急上昇。Sさんでなければ出来ないお仕事が次から次に舞い込んで来ると出ています。きっと奥様が、『もう少し世の中にいて、そのお仕事をやり遂げてから、わたしの所へ来て下さい』って言ってるんですよ!(笑)」

わたしの鑑定に心当たりがあるようです。

きらら「ところで、Sさんに再婚するお気持ちは?」

Sさん「今までにも何度か、そういう話はあったのですが、死んだ妻に申し訳なくて、すべて断って来ました。本当に、わたしには過ぎた妻でしたから…」

きらら「お節介かもしれないけど、来年の8月頃に、大きな再婚☆が出ています。Sさんの運勢から見て、その方は、お亡くなりになった奥様とよく似た方のような気がします」

Sさん「そうですか。でも…(微笑)」

しめた!…大分、場の空気が和んで来ました。

きらら「再婚の件はともかく、最愛の奥様も反対しているんですから、自殺なんか考えちゃ駄目ですよ。今日、わたしと出会ったのも何かのご縁。それに10月には大きな商談が来るんですから…」

Sさんの顔に元気が出てきたようです。

Sさん「もう少し、この世で頑張ってみようかな(笑)」

きらら「『死んで花実が咲くものか』――もう少しじゃなく、奥様が『ご苦労さま。もういいですよ!』って言うまで頑張らなくちゃ(笑)」

良かった~!――『きらら館』の看板とトルコ珈琲のお蔭かもしれません。

その後のSさんの話は、次週に続きます。 (続く)

 

きらら(8/16)

photo credit: 日イヅル國ノ via photopin (license)

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