「男は懲りない駄々っ子。老いては妻に従うべし!?」

18792686962_752f664298梅雨――ベランダに置いた鉢植えの紫陽花の花もどこか嬉しそうです。

次の予約までの間、「晴れも良し!雨もまた良し!」なんて思案しながら、念入りに淹れた珈琲を飲んでいたところへ、Oさんが、けたたましく飛び込んで来ました。

Oさん「先生、わたし離婚することに決めました!」

きらら「どうしたのよ、一体?」

東京近郊で数軒のブティックを経営する会社の役員を務めるOさんは『きらら館』開館直後からのお客様。
ふたりのお子様もそれぞれ結婚、現在はダンディなご主人とふたり暮らしです。

Oさん「もう、今度という今度は許せません。絶対に離婚します!」

怒髪天を衝く!?――美人だけに怒った顔は、まるで般若(失礼!)のようです。

きらら「何があったの? 落ち着いて説明してよ。今、珈琲を淹れるから…」

珈琲を飲んで落ち着いたのか、少しは冷静になったようですが、目はまだ吊りあがっています。

Oさん「浮気、浮気です。結婚以来40余年。若いときならいざ知らず、還暦を過ぎてまで浮気するなんて! 悔しいやら、腹が立つやら、もう主人には幻滅です」

ご主人とは過去に何度もお会いしていますが、とてもオシャレで背も高く、昔風に言えばロマンスグレーの好男子です。

きらら「浮気したのは本当なの?」

Oさん「本当も本当、本当のことですよ。ひょんなことからわたしが気付いて、問い詰めたところ、最初は『浮気はしていない。そんな関係ではない』とシラを切っていたのですが、最後には2ヶ月ぐらい付き合っている彼女がいることを認めました」

きらら「そうなの」

Oさん「しかも、その相手が、娘とそう年齢が違わない女性なんですから何をか況や。最低です。――きらら先生なら分かってくれるでしょ、わたしの気持ち!」

気持ちは分からぬでもありませんが、仮に浮気が本当でも、だからといって離婚というのも性急過ぎます。

きらら「離婚については切り出したの?」

Oさん「もちろんです。わたしが『離婚しましょ』って言ったら、憎たらしいことに、笑いながら『ああ、いいよ』ですって!」

売り言葉に買い言葉。――老人同士の“修羅場”が目に浮かびます。

きらら「どうしてもご主人のことを赦せないの?」

Oさん「今日という日は、もう堪忍袋の緒が切れました。これまで何度も、女性問題には泣かされて来ましたが、子どもも小さいし、『わたしが到らなかったから主人が他の女性に走った』と自分に言い聞かせ我慢してきたのに…(涙)」

きらら「そうよねえ。『きらら館』にお見えになったのも、ご主人の浮気相談でしたね」

Oさん「あの時、きらら先生からは『おふたりは相性もピッタリ。切っても切れないご縁で結ばれるべくして結ばれたご夫婦です。(略)ご主人は、花にたとえれば紫陽花。本人が努力しなくても、回りの安心感を与える雰囲気を持っているので、幾つになっても女性にはモテます。その誘惑に乗るか、乗らないかはご主人次第ですが、心の底ではOさんに甘えているので、カリカリせずに、甘えん坊の“息子”がいるぐらいの気持ちでいれば、そのうち遊び疲れて、あなたの許へ帰って来ますよ』って言われましたが、主人はまだ遊び足りないのでしょうか?(笑)」

きらら「うわー、よく覚えてらっしゃいますね(笑)」

Oさん「先生の言葉は、いつもちゃんと日記に書いてるんです(笑)」

その時です。

「ごめんください。家内がお邪魔していないでしょうか?」

玄関で男の人が聞こえてきました。

Oさん「あら、あの声は主人じゃないかしら?」

Oさんのご主人バツの悪そうな顔で立っていました。

きらら「今、ふたりでご主人の悪口を言ってたところですよ(笑)。さあさ、どうぞお入りください」

Oさん「どうして、ここにいると分かったの?」

ご主人「お前が行くとしたら、実家か、きらら先生のところしかないじゃないか(苦笑)」

Oさん「離婚することに決めたので、良い弁護士を紹介して貰おうと思ってお邪魔してたのよ」

ご主人「いやはや、きらら先生には不様なところを見せてしまって申し訳ない」

Oさん「遊び足りない“浮気息子”が、何を気取ってるのよ!(怒) その種を播いたのはあなたじゃない!(怒)」

ご主人の登場で一旦は治まっていたOさんの怒りが再燃してきたようです。

きらら「まあまあ。Oさんも、せっかくご主人が迎えに来てくれたのですから、冷静になって仲直りしましょうよ」

『きらら館』が仲裁の場になりました。

ご主人「すまん。これを最後に浮気は止めるから…」

Oさん「何よ、いつも同じ謝り方じゃない。到底、信じられません」

ご主人「今度こそ本当に止めるよ。金輪際、浮気は致しません」

会社では「会長」と呼ばれているご主人も、Oさんの剣幕にはタジタジです。

Oさん「ホントに止める? 今日は、きらら先生という証人がいるんですから、誤魔化しは効かないわよ。先生、証人になってくれますね」

きらら「はいはい。ご主人もこんなに反省しているのですから、赦してあげたら…」

Oさん「ホントに、これが最後の最後よ。今度、浮気したら、絶対に赦さないから」

ホッ!――ようやく“台風通過”の気配です。

Oさん「あなた!お詫びの代わりに、欲しかったバッグを買ってくださいよ」

ご主人「はい、分かりました」

Oさん「それと、帰りには何か美味しいモノも…」

全面降伏のご主人は頷くしかありません。

Oさん「さあ、帰りましょ。いつまでもグズグズしてると、きらら先生にご迷惑ですから…」

エレベーターまで送って行ったら、あらら、さっきまで角を突き合わせていたおふたりが、ニコニコしながら手をつないでいるではありませんか!

男は幾つになっても懲りない駄々っ子です。.

きらら(6/29)

photo credit: Rainy season via photopin (license)