「除霊の必要はありません!」

和服予約時間ピッタリにお見えになった和服姿のCさん。
初めてのお客様です。

Cさん「よろしくお願いします」

きらら「ようこそいらっしゃいました」

Cさん「いつもインターネットで拝見していたのですが、遠方なもので…」

きらら「遠方というと、どちらからお見えですか?」

Cさん「山口県の徳山です。こちらに嫁いでいる娘が出産したもので、世話を兼ねて久しぶりに東京に参りました」

きらら「それはそれは遠いところを。ありがとうございます」

娘さんの結婚以来3年ぶりの東京とか。――街の変わり様にひとしきり華を咲かせたあと、

きらら「ところで、今日はどういうご相談で~?」

Cさん「先生、除霊をお願いしたいのですが…」

きらら「除霊? どういうことですか?」

Cさん「今年の初め、闘病1年余りの末に夫をガンで亡くしました。抗がん剤が効いたのか、ひょっとしたら元気に退院できるのでは、と思えるほど順調に回復していました。私も安心して日帰りで実家の法事に出かけたのですが、その日の午後、夫の容態が急変。死に目にも会えぬまま、あっけなく亡くなってしまいました。それが何とも心残りで、今も悔やんでいるのですが、その夫が毎晩のように夢に出て来るのです。ひょっとして夫は成仏できなくて、それで夢に見るのではないでしょうか?」

きらら「除霊なんて必要ありません。ご主人のことを夢に見るのは、成仏云々ではなく、あなた自身の心が呼んでいるからです。ご主人が呼んでいるのではありませんよ。お亡くなりになった日に偶々、不在で死に目に会えなかったという後悔がトラウマになっているのです。あなたの心の持ち様です。1年以上も献身的に看病して来られたあなたに感謝こそすれ、ご主人が嫌がらせみたいに夢になど出て来るはずがありません。きっとご主人はあの世で楽しくしているはずです。いつまでも死に目に会えなかったことを引き摺らないで、今日からはご主人のように楽しく生きてください。そうすれば今夜から夢に出て来ることは絶対にありません」

Cさん「はい」

きらら「すべてはあなた自身の心の持ち方です。お孫さんが産まれたのです。除霊とかお祓いとか余計なことを考えず、すくすくと育つようにご主人の分まで可愛がってあげてください」

きらら(5/19)