「娘の迷い? 実は…」

方位石コツコツコツ、コツコツコツ…。

「あの足音は、H先生かな?」

H先生「こんにちは。家内と渋谷まで来たので寄らせて戴きました」

きらら「ご無沙汰です。お元気そうでなによりです。あれっ、奥さまは?」

H先生「一緒に来た娘と目の前のデパートで買い物していますので、私はきららさんに会いたくて足を運びました」

Hさんは、私より10歳ほど年上ですが、雅楽の世界ではその名を知られた「鼓」の名手です。
『きらら会』のメンバーに紹介されたのがご縁で、爾来10余年。事ある毎に、「きらら館」に顔を出してくれます。

きらら「先生もお元気そうで何よりです。今年の冬は格別寒いそうですので、お身体には気をつけてくださいね。ところで、今日は何を鑑定なさいます?」

H先生「来年、娘夫婦が家を新築するというので、その方位を観て貰いたくて参りました。現在、S区とM区のどっちにするか迷っていて、毎日のように私のところへ相談に来るのですが、なかなか決まらなくて難儀しています。そこで思いついたのが、きららさんというわけで…(笑)」

きらら「はい。畏まりました」

H先生は、2枚の地図を出しながら、「私としては老い先短いし、出来るだけ私の自宅に近いS区あたりがいいと思っているのですが、娘はM区がいいと言い張って…(笑)」

きらら「方位的に観れば、残念ながら(笑)娘さんが仰ってるM区のこの土地が財運、健康運、すべての面に於いて最高です。それに、先生のお住まいとも2駅しか離れていないし、私はM区をお薦めしますよ」

H先生「やっぱりなあ。実は家内も娘の味方をして『M区の方がいい』って言ってるんです。そのうえ、きららさんにまでM区がいいと言われては多勢に無勢。私も“M区派”に鞍替えしますかな(笑)」

きらら「世の趨勢は“女性上位”ですから(笑)ここは宗旨替えがいいと思いますよ。でも、結局迷っていたのはH先生ご自身じゃありません(笑)」

H先生「こりゃ参った。きららさんにはみんなお見通しなんですな(笑)」

気のせいか、お帰りになるH先生の足取りは軽やかでした。

きらら(12/2)