「おとぼけのすすめ」

ビジネス「懇意にしているお友達の息子さん(A君)が落ち込んでるから鑑定してあげてくれる。私も相談に乗ったんだけど駄目なのよ。お願いね」

先月、有名ブティックを経営するK女史から久しぶりに電話がありました。

公私にわたって10年近くのお付き合いがあるとはいえ、K女史は私より7歳年上の“スーパー・ウーマン”です。
そんな彼女ですら適切なアドバイスが浮かばない問題とは何なのか?――気安くお引き受けしたものの、ちょっぴり緊張しながら約束の時間を迎えました。

A君「よろしくお願いします」

礼儀正しく挨拶するA君は、某有名企業にお勤めしている好青年。やや曇り気味の表情で私の前に座りました。

A君「実は、会社で直属の上司から、あることで質問された時、丁度、僕の得意分野に関する問題だったので、知っている限りのことを一生懸命に答えたのですが、それ以後、上司とギクシャクした関係になってしまいました。僕は部下として、当り前に説明したつもりなのに、何が悪かったのか、どう考えても原因が分かりません。上司に直接、聞くわけにもいかず、両親やKおばさんに相談しても、要領を得た答が返って来ません。こんな気持ちでは満足な仕事もできないし、もう会社を辞めようかと思っています」

なるほど、なるほど。会社という「組織」ではよくあること。とはいえ、人生経験の浅いA君にとっては大問題。「会社を辞めたい」とまで思い詰めているとあっては、私も責任重大です。

まずは、型通りにA君と上司の生年月日を聞いて鑑定を開始しました。――A君は私の手元を不安そうな顔で覗き込んでいます。

きらら「あなたと上司の性格はよく似ているし、気も合うし、相性もバッチリ。しかし、だからこそ、些細なことで歯車が狂うと、お互いが意地を張って、必要以上に反発しあうのが2人の欠点だわね」

A君「上司は大学の先輩ですし、厳しいですが、大事にしてもらってきました」

きらら「説明した際、あなたは得意な分野ということで待ってました!とばかりに、聞かれもしないことまで詳しく答えなかった?」

A君「僕としてはその方が、より理解してくれると思ったものですから、思いっきり説明しました」

きらら「『知りて知らずとするは 尚なり』――これは中国・老子の言葉だけど、あなたの説明は間違ってなかったし、決してそんな気持ちはなかったでしょうが、上司にしてみれば、『なんだ、こんなことも知らないのですか?』ってバカにされたように受け取ったのじゃないかしら?」

A「バカにするなんて僕には、全然……じゃあ、どうすれば良かったのですか?」

きらら「大企業だって、所詮は人間の集まり。些細なことで円滑になったり、反目したりするものよ。今回のような場合、たとえ得意分野のことであっても、必要最小限のポイントだけを要領よく答え、後は質問があれば答えるようにするのが賢明だわね。時には『よく分かりませんが…』と言って、相手に華を持たせるような演技だって必要だわよ。要するに良い意味の『おとぼけ』よね」

A「そうかぁ。いくら気が合っても相手の気持ちを忖度した態度が必要だと…」

きらら「そうよ。同じことは上司にも言えるわ。部下の小さな欠点まで見えたとしても、それをいちいち口にしては駄目。見て見ぬふりをして、タイミングを見て、さりげなく注意するような配慮が出来るのがナイスな上司の条件よ」

A君「これまでは上司のことを“わからず屋”と批判ばっかりしていましたが、よく分かりました。たとえ正しいことを言っても、いつも自分を基準にして相手に接しては、誤解される場合があるということですね。お蔭でスッキリしました。ありがとうございました。また何かあったら相談に来ますのでよろしくお願いします」

きらら(10/14)