「理想は共福」(2)

2020年のオリンピックが56年ぶりに東京で開催されることになりました。
しかし、2020年といえば7年先。――長いようで短いのが年月とはいえ、う~ん。――その時の東京はどんな街に変貌しているのでしょうか。楽しみです。

山脈さて、今日は前回の続きです。
そうそう、「田中正造論」でしたね。

一夜漬けで田中正造翁について勉強したものの、所詮は付け焼刃。何から喋っていいのか、どぎまぎしている私を前に、開口一番、Xさんはこう言いました。

Xさん「『真の文明は山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし』――彼の文明観が凝縮された名文だが、きららさんはどう思いますか?」

きらら「その『真の文明』というのは何を指しているのですか?」

Xさん「『真の文明』という以上、『偽の文明』があるんだが、正造は物質中心、経済優先、命よりも金を重要視する西洋近代文明を『偽の文明』と位置付けているんだ」

きらら「とすると『真の文明』とは、経済的価値に換算できないものということになりますが、その例が山や川、村というわけですね」

Xさん「正造の考えの根幹には『人間は万物の奴隷でもよし』、すなわち『山や川の寿命に比べれば人間の寿命などは瞬間的なものにすぎない』、だから『そんな小さい存在にすぎない人間が、自然を征服できるなどと思い上がってはいけない』、『自然に生かされているという謙虚な姿勢で自然に対峙しなければならない』『太陽や水の恵み、風や波の力、土壌や森林の働きなどを無駄にしない生き方をしなければならない』とする確固とした信念があるんだな」

きらら「なるほど!――自然との『共生』を理想としたわけですね」

すっかりXさんの独演会状態。美味しそうなお料理を前に、私は箸を持ったまま、頷きながら相槌を打つだけです。

Xさん「また、彼は自然に対する畏敬の念だけではなく、『真の文明』のもうひとつの側面として『国民の上下貴賎なく、弱者貧福ない社会の実現』を唱えて『弱者の生存権の保障』に心血を注いだんだな。この前、きららさんが言った『足尾銅山鉱毒事件』は、その実践というわけだ」

きらら「あのう、『ヒンプク』って聞き慣れない言葉ですが、どんな漢字を充てるんですか?」

Xさん「貧富ではなく『貧福』――すなわち、経済的な平等だけでなく、共に幸せになること、幸福感も平等であるべきと考えた正造の造語だ。――『他を思わざるもの社会に充満して国漸く滅亡す』――他者を思う気持ちこそが人間関係の基本であり、社会の基本原理だと看破しているんだな」

きらら「すごいですね。昨今の社会風潮を見越していたんですね」

Xさん「『公共協力相愛』――政治家としては中途半端だった私だが、今頃になってようやく『政治の何たるか』を正造翁に教えて貰ったよ。老人の愚痴はこれぐらいにして、さあ、食べましょう。そうそう、お礼を言うのが最後になってしまったけど、きららさんに名付け親になって貰った孫娘は、もう小学校の6年生だよ。お蔭で病気もせず、元気に学校に通っています。近いうちに娘も一緒に3人で渋谷にお邪魔させて貰うよ」

「公共協力相愛」――早速、座右の銘に付け加えました。

きらら(9/9)