「理想は共福」

国会議事堂先日、数年前に政界を引退、現在は悠々自適の隠居生活を送っている「元衆院議員」のXさんからお食事の招待がありました。

Xさんとの出会いは12年ほど前。――ある方の個人的なパーティで紹介されたのですが、政治オンチの私は、当時のXさんが、知る人ぞ知る高名な国会議員とは露ほども知らぬままに、あれやこれや楽しいお喋りに夢中。会話の中味も政治とは無縁の話題ばかりでした。

数週間後、そのXさんから「是非、鑑定して欲しいのですが…」と電話があったのですが、なんと指定された場所は議員会館!――鈍感な私も、ようやくX先生が、現役の政治家だったことを知った次第。何とも間の抜けた話ですが、事実だから仕方ありません(笑)。

緊張感は一気にマックスです。――半年後に迫った選挙の当落予想なのか、それとも政治の世界の生々しい事柄を切り出されるのか、あれこれ想像しながら、議員会館に到着した私を待っていたXさんの口から出た依頼内容は、なんと近く産まれるお孫さんの「命名」でした。

Xさん「先日はどうも。きらら先生に会えたことで楽しいパーティでした」

きらら「とんでもございません。失礼な話ばかりしてしまい恐縮しています」

Xさん「明日からしばらく所用で外国へ行くもので無理を言って、こんな無粋なところまで足を運んで戴いて申し訳ない。実は、近く産まれる孫の『命名権』を娘からもらったので、幸せになる名前を、きらら先生に是非お願いしようと思って、わざわざ来て戴きました」

きらら「光栄です。ところでお孫さんは男の子ですか、それとも女の子?」

Xさん「医者によれば、どうやら女の子のようなんだが…」

きらら「たとえば、誰かの名前を一字入れるとか、何か条件はございますか?」

Xさん「娘は、私の家内の名前を一字入れて欲しいと言ってるのだが、およそハイカラじゃないからね。もし無理でなければ入れてください」

お父様、(Xさんの娘さんに該たる)お母様、それにXさん、及び(Xさんの)奥様のお名前、生年月日などをお伺いし、帰国後にお渡しすることになったのですが、Xさんの話は、ここまでが“序論”でした。

きらら「お忙しいでしょうから、これで失礼します」

Xさん「ところで話は全然違うが、きらら先生は、僕らの大先輩だが、田中正造という明治の政治家をご存知ですか?」

きらら「確か、足尾銅山鉱毒事件で知られる栃木県の…」

Xさん「私が政治家を志したのも、学生時代に田中先生の影響を受けたからなんだ。今度お会いする時に『田中正造翁』について、この前のパーティの時のように、きらら先生と議論したいと思っているんだが、どうかな?」

お孫さんの命名から、いきなりの「田中正造論」です。――何の知識もない門外漢なのに、どうしよう!!――さすがに面食らってしまいました。(以下次号)

きらら(9/2)